透析を受けていると、さまざまな病気の名前を耳にする機会はありませんか?
腎不全という病気は、それだけで症状が出るとは限りません。実は合併症があらゆる健康上の問題を引き起こすことがあります。
腎不全の合併症を少しでも食い止めようとするのが透析治療です。
一方で、透析だけでは十分に対応しきれない合併症があります。
医療&工学ライター神野 竜治さん
その一つとして、腎不全に関連する「貧血」が挙げられます。
貧血といっても、原因や症状はさまざまです。本記事では腎不全が原因で起こる貧血について、現役臨床工学技士の立場からわかりやすく解説します。
そもそも貧血って何?


貧血というと「女性に多いもの」という印象を持つ方もいるかもしれません。しかし、血液透析を受けている場合は、男女を問わずみられることがあります。
貧血は、血液中で酸素を運ぶ赤血球やヘモグロビンが十分に保たれていない状態を指しますが、その背景にはさまざまな要因が関係しています。
ここでは、まず貧血そのものの基本から確認していきましょう。
貧血の定義は?
貧血とは一般的に「血が足りていない」と言われますが、具体的に血液の何が足りないのでしょうか。
貧血は赤血球の数と質が重要になります。[1]
- 赤血球は酸素を身体のすみずみに運ぶための「トラックの数」にたとえられます。
- 血色素量(以下、Hb)はそのトラックに積める酸素の量にたとえられます。
貧血の診断においてはHb値が基準となり、以下に当てはまる場合に貧血とされます。[1]
- 15歳以上の男性:Hbが13g/dL未満
- 15歳以上の女性や6歳~14歳の小児:Hb12g/dL未満
- 高齢者や6カ月~6歳の小児:Hb11g/dL未満
貧血の症状は?
貧血のおもな症状は以下のとおりです。[1]
- 息切れ
- めまい・立ちくらみ
- だるさ・疲れやすさ
- 動悸
- 顔色が悪い・青白い
- 集中力の低下



神野 竜治さん
血液透析を受けている方では、定期的な採血でヘモグロビン値や鉄の状態を確認し、その結果をもとに医師が貧血治療薬を調整します。[2]
なぜ透析患者さんは貧血になりやすいのか?


これまでの内容は、おもに一般的な貧血のお話でした。では、血液透析を受けている場合、なぜ貧血を伴いやすいのでしょうか。その背景を理解するためには、まず腎臓が体の中で担っている役割に目を向けることが大切です。
腎臓の働きが低下した腎不全状態では、赤血球を作る仕組みに影響が出ることがあります。 本章では、腎臓の役割を解説していきます。
腎臓の役割


腎臓には大きく分けて3つの仕事があります。具体的には、次のとおりです。
- 尿を作る
血液中の老廃物を尿として体の外に排出する - 体のバランスを一定に保つ
体内の水分量を一定に保つ
血液や尿中の電解質(ナトリウム、カリウムなど)のバランスを一定に保つ - ホルモンを作る
赤血球を作るホルモンを分泌し、貧血の予防に役立つ
血圧を調整するホルモンを分泌し、血圧の調整に役立つ
骨を丈夫にするホルモンを分泌し、腸のカルシウム吸収を促して骨の維持に役立つ
以上が腎臓の仕事となります。[3]
腎不全で貧血になる理由
腎不全と診断され、血液透析を受けるようになると、さまざまな病気の名前を耳にすることもあるでしょう。
先に紹介した腎臓の働きは、言い換えると、腎不全になると十分に行えなくなる働きです。
その中の一つに「赤血球を作る働き」があります。腎臓の機能が低下すると、この働きが弱くなり、赤血球が作られにくくなる場合があります。
これが、腎不全を患った人は貧血になりやすいといわれている理由です。



神野 竜治さん
つまり、「透析を受けているから貧血になってしまう」のではなく、「腎臓の働きが低下していること」が貧血のおもな原因といわれています。
透析患者さんの貧血にはどんな治療がある?


実際に貧血がみられる場合、どのような治療が行われるのでしょうか。
血液透析は体内の老廃物や余分な水分を取り除く治療ですが、貧血の改善につながるとは限りません。



神野 竜治さん
腎臓の働きが低下すると、赤血球の産生に関わるホルモンが十分に作られにくくなるため、透析治療だけではその不足を補いきれないことがあります。
そのため、貧血の状態や原因に応じて、透析以外の治療が併せて行われます。
内服薬による治療
現在、日本では内服による貧血治療として「HIF-PH阻害薬(ヒフピーエイチ阻害薬)」と呼ばれる薬が使用されています。
これは透析治療の後や自宅などで内服し、Hbの値を目標値で維持することを目的に処方される薬です。服用方法は薬剤によって異なります。



神野 竜治さん
この薬は、体内を疑似的な低酸素状態に錯覚させることで、酸素を運ぶ赤血球の生成を助ける「エリスロポエチン」の分泌を促す薬です。[2]
注射による治療
注射による治療では、「ESA製剤(イーエスエー製剤)」が存在します。
ESA製剤にはさまざまな種類があり、透析の終了時に毎回投与するものから、1~4週間に1回の投与で済むものもあります。
Hb値が低すぎる状態はもちろん、上がり過ぎても血管への負担が高まる可能性があるため、慎重な管理が必要です。
この薬は、採血結果のHbの上がり具合を診ながら、用量を調整します。



神野 竜治さん
ESA製剤は、赤血球の産生を促すホルモンの働きを補う薬です。ただし、透析患者さんの貧血治療はESA製剤だけで十分とは限りません。
貧血の原因によっては、もう一つ重要な治療薬である鉄剤が必要になる場合もあります。[2]
鉄剤による治療
赤血球やヘモグロビンを作るには、材料となる鉄が必要です。そのため、鉄が不足している場合には、鉄剤を使用することがあります。
血液透析では、注射で鉄を補うこともあります。鉄剤は、フェリチンやTSAT(トランスフェリン飽和度)などの検査値を見ながら、使用するかどうかの判断が必要です。
鉄を補充することで、赤血球を作るための材料がそろいやすくなります。ただし、鉄は多ければ多いほどよいというものではありません。



神野 竜治さん
体内に過剰にたまる可能性もあるため、検査値を確認しながら管理することが大切です。[2]
最後に:貧血と上手に付き合うために


「透析を受けると体調を崩す」といった不安な声を聞くことがありますが、体調不良の背景には、透析が必要になった原因である腎不全が影響している場合があります。
貧血は血液透析と関連することがあり、食生活や運動習慣だけで直接改善するとは限りません。
しかし、透析をきちんと受けることで、尿毒素が減り、血液をスムーズに作る環境を整えることができるのも事実です。



神野 竜治さん
また、鉄を適切に摂取する観点からも、食事はバランスに配慮することで貧血の改善に役立ちます。
貧血対策には透析・薬物療法・食事管理を組み合わせて取り組むことが大切といえるでしょう。


医療&工学ライター:神野 竜治さん
大阪ハイテクノロジー専門学校 昼間部4年課程卒業。臨床工学技士として血液浄化・集中治療に携わりながら、透析データ解析や医療アプリ開発にも取り組んでいます。臨床現場で得た経験をもとに、透析医療、医療安全、臨床工学に役立つ情報を発信しています。 「第23回Medi+医療ライターのはじめかた講座」卒業生。
WordPress:https://ce-bme.com/
神野さんも受講した、「医療ライターのはじめかた講座」とは?









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