「腰が痛い……!」
ナースステーションやベッドサイドで、思わず腰をおさえた経験はありませんか。
年齢に関係なく、腰痛に悩む看護師は少なくありません。
厚生労働省による業務上疾病の調査では、2023年に4日以上の休業が必要となった腰痛の発生件数が全業種において6132件でした。
そのうち2194件は、看護師や介護士が従事する保健衛生業で発生していると報告されています。[1]その割合は全体の35%以上で、すべての業種の中で最多です。
痛みを我慢して勢い任せにケアすると、腰痛が悪化するだけでなく、ケアを受ける患者に痛みや危険を与える可能性もあります。
しかし、忙しさでつい動きが雑になったり、周囲へ遠慮して助けを求められなかったりと、十分に対策がとれず悩む方も多いのではないでしょうか。
医療系Webライター藤田 くらさん
この記事では、整形外科病棟に勤務経験があり、実際に20代で腰痛に悩んだ筆者が、体験談を交えながら病棟でできる対策を解説します。
どうして看護師は腰痛が起こりやすい?


腰痛は中高年の方が発症するもの、というイメージを持っていませんか。
しかし、年齢にかかわらず看護師は腰痛が起こりやすく、悩んでいる方が多く存在します。
腰痛が原因で異動や休職、退職せざるを得ない場合も少なくありません。



藤田 くらさん
それには看護師という職業の労働条件や労働環境が大きく影響しています。
大きく分けて二つ考えられる、看護師に腰痛が起こりやすい理由を解説していきます。
身体への負担が大きい働き方
移乗介助、体位交換、排泄介助、入浴介助など、看護業務は腰へ負担のかかる動作の連続です。自分より身長体重のある患者を担当することも避けられません。
また、意外と多いのが、パソコンなど電子端末の作業です。



藤田 くらさん
記録のため長時間座り続けたり、電子端末をワゴンにのせて立ったまま記録をしたり、つらく感じている方も多いのではないでしょうか。
生活リズムと精神的ストレスの影響
看護師の勤務形態はさまざまです。とくに夜勤のある不規則な生活はリズムが乱れ、睡眠不足になりがちです。十分に休息がとれないまま次の勤務を迎えることもあります。
また、命を預かる仕事のため、責任感や緊張感を抱きやすく、日頃からストレスを感じている看護師は少なくありません。



藤田 くらさん
心理的ストレスは腰痛を治りにくくさせる原因の一つと言われています。[2]
病棟で実践できる腰痛対策5選


腰痛はつらいけれど、簡単には休めず、周囲に迷惑をかけられない。そう感じる看護師は少なくありません。
休日に病院や整骨院、整体に通っても、無理な働き方を続ければ改善は難しく、悪化する可能性もあります。
そこで病棟で実践できる腰痛予防対策を5つ解説します。



藤田 くらさん
現場で続けやすい工夫を中心に紹介しますので、参考にしてください。
不自然な姿勢をとらない
看護の現場において、前傾姿勢、中腰、ひねりなどはよく発生する作業姿勢です。これらの不自然な姿勢は腰痛を発生させる大きな要因となります。[3]
ベッドの高さを調整する、患者に体を近づけて作業する、低いところでの作業は片膝をつく、患者に対して体の正面を向けてケアするなど、不自然な作業姿勢をとらないようにしましょう。[3]



藤田 くらさん
また、作業環境を整えることも重要なポイントです。
作業空間が狭いと不自然な姿勢をとりやすくなるため、ベッドサイド周辺を整理して空間を広くとるように工夫しましょう。[3]
遠慮は無用!人の力を借りる
周囲に遠慮して移乗介助を1人で行っていませんか?
国は2013年に「職場における腰痛予防対策指針」を改訂し、介護や看護作業において原則として人力による人の抱え上げは行わせない方針「ノーリフト」を示しています。[4]
しかし、実際の現場において人力での抱え上げを完全になくすのは簡単ではありません。



藤田 くらさん
どうしても抱え上げなければならない時は、必ず2名以上のスタッフで介助するようにしましょう。[3]
患者側の協力を得ることも大切です。柵や手すりに掴まってもらうだけでも介助側の負担が減り、患者の身体機能の維持・向上や回復にもつながります。[3]
福祉用具を積極的に使う
スライドボードやスライディングシート、グローブは勤務先に配置されていますか?
これらの福祉用具は摩擦を少なくし、介助側と患者側の身体的負担を少なくしてくれる道具です。[5]



藤田 くらさん
もし備品棚に置かれたまま活用されていないのであれば、ぜひ使ってみてください。
目につく場所に配置する、定位置に戻すなどして使用頻度を上げ、使用を習慣化させましょう。
長時間の同一姿勢を避ける
同じ姿勢を長時間とると腰に負担がかかり、痛みの原因となります。[3]
多くの医療施設で電子カルテ化が進み、看護師がパソコンに向かう時間が増えました。
しかし、廊下などで立ったまま端末を操作したり、パソコン作業に適さない椅子や机を使ったりと、快適とはいえない作業環境になることもあります。[3]
以下のような工夫を心がけましょう。
- 背もたれ付きの椅子に深く腰掛け、高さを調整して作業する
- 座る時間が長くなったら適宜立ち上がる
- 立位で記録する場合、10分を超える連続操作は避ける



藤田 くらさん
適切な作業姿勢を心がけ、同じ姿勢を長時間とり続けないようにしましょう。
休憩とストレッチ
腰痛を予防するためには、疲労を蓄積させないよう、身体を回復させることが重要です。以下のように休憩や睡眠をとりましょう。[3]
- 入浴介助など介助量の多い業務のあとは、一度腰かけて小休止を挟む
- 夜勤中の仮眠は静かな環境で横になって休息する
意識して十分な休憩をとり、身体の回復に努めましょう。
また、ストレッチを主体とする体操は腰痛予防において重要です。とくに「静的ストレッチング」は安全に筋肉の柔軟性を高め、筋疲労の回復につながると言われています。[3]
下記に具体的なストレッチ方法を紹介します。
息をゆっくりと吐き、反動をつけずに痛みのない程度に20〜30秒伸ばし続けるのがコツです。[3]
太ももの前側
20~30秒姿勢を維持し、左右それぞれ1~3回伸ばす[3]


ふくらはぎ
20〜30秒姿勢を維持し、左右それぞれ1〜3回伸ばす[3]


上半身
20〜30秒姿勢を維持し、1〜3回伸ばす[3]


背中
20〜30秒姿勢を維持し、1〜3回伸ばす[3]


太ももの後側
20〜30秒姿勢を維持し、1〜3回伸ばす[3]


太ももの内側
20〜30秒姿勢を維持し、1〜3回伸ばす[3]


整形外科病棟看護師の体験談


筆者も腰痛に悩んだ経験がある一人です。
看護師4年目の20代半ば、当時は整形外科で勤務していました。移乗介助、排泄介助、入浴介助が多くありましたが、よく考えずに中腰のままケアをしたり、力任せに1人で移乗介助したりしていました。そして日々強まる腰痛に、このまま仕事を続けられるか不安になっていきます。
ちょうどそのころ、病棟にスライディングシートやスライドボードなどが導入されました。



藤田 くらさん
福祉用具を活用する取り組みが病棟全体ではじまったのをきっかけに、腰痛があることを師長や同僚たちに隠さず伝えることになります。
移乗時は必ず力を貸してもらう、福祉用具を活用する、中腰でケアしないなど心がけたことが、腰痛改善に役立ったと感じています。
その結果、少しずつ痛みが軽減し、周囲の協力にも恵まれ、数か月で腰痛をほぼ感じないほどに改善しました。
ちなみに市販の腰部保護ベルトを使用していた時期もあり、筆者の場合は一時的に痛みが楽になりました。しかし、現在厚生労働省の指針では見解が分かれています。仕事中の使用に関しては慎重な判断が求められています。[3]



藤田 くらさん
痛みが強いときや長引く場合、自己判断せず医師へ相談しましょう。
自分の身体を大切に看護の仕事を続けよう


病棟で実践できる腰痛対策をお伝えしてきました。腰に違和感や痛みを感じたときは、1人で悩まず、積極的に周囲へ協力を求めることが大切です。



藤田 くらさん
ケア方法や作業環境をこまめに見直すことは、ケガや事故を防ぎ、安全な業務につながります
無理をせず自分の身体を大切に、やりがいのある看護の仕事をこれからも続けていきましょう。
[1]厚生労働省>政策について>分野別の政策一覧>雇用・労働>労働基準>安全・衛生>安全衛生関係統計・災害事例について>業務上疾病発生状況等調査(令和5年)>PDF版業務上疾病発生状況等調査結果 p1
[2]厚生労働省 働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト「こころの耳」>コラム(その他)>身体のストレス反応から考える職場のメンタルヘルス対策:No.1ストレスと腰痛
[4]厚生労働省>政策について>分野別の政策一覧>雇用・労働>労働基準>安全・衛生>職場における労働衛生対策>腰痛予防対策>保健衛生業における腰痛の予防
[5]厚生労働省>政策について>分野別の政策一覧>雇用・労働>労働基準>安全・衛生>職場における労働衛生対策>腰痛予防対策>保健衛生業における腰痛の予防>福祉器具に関する知識をまとめた資料 p8,22


医療系Webライター:藤田 くらさん
医療系大学看護学部卒。看護師として約10年、大学病院、へき地医療拠点病院、訪問入浴、デイサービスなど多様な現場を経験。同じく看護師の夫、息子、娘の4人家族。現在は子育てに専念しながら、2026年より医療系Webライターとしても活動を開始。「読み手に伝わる分かりやすい文章」を心がけ執筆活動をしています。「第23回Medi+医療ライターのはじめかた講座」卒業生。
藤田さんも受講した、「医療ライターのはじめかた講座」とは?









コメント