「さっき食事したばかりなのに、また催促される」
「同じことを何度も聞かれて、つい強く言い返してしまった」
年齢のせいなのか、それとも認知症なのか、答えがわからないままうまく対応できず自分を責めていませんか。大切な人だからこそ、関係を悪化させたくなくて悩んでしまいますよね。
認知症の対応には、本人が安心する接し方の基本があります。困った言動を症状として理解できると、落ち着いて向き合えるようになりますよ。
本記事では、信頼関係につながる対応と3つのポイント、困った場面での向き合い方を解説します。さらに、ひとりで抱え込まないための相談先もお伝えします。最後まで読んで、できることからはじめてみませんか?
認知症の対応ではよい感情を残し、信頼関係を保とう

認知症の方との信頼関係を保つには、日々の関わりで心地よい感情を残すことが重要です。出来事そのものを忘れても、そのとき感じた気持ちは残るといわれているためです。
記憶障害の人を対象にした研究では、映画の内容を忘れたあとも、悲しみや喜びの感情が続いたと報告されています。[1]つまり、周囲の対応で「悲しかった」「怖かった」という不快な感情だけが心に残ってしまう可能性があるのです。これらが積み重なると、周囲への不安や不信感につながります。
だからこそ、笑顔や声かけ・スキンシップで「安心した」という気持ちを残すことを意識しましょう。[2]本人の反応を見ながら、その人に合った方法を探してみてください。
認知症の対応で意識したい3つのポイント

認知症の方との日々の関わりで意識したいポイントは以下の3つです。
- 本人のペースに合わせ、共感する
- 簡潔で具体的に伝える
- 否定せず、失敗や間違いを責めない
本人の不安をやわらげ、おだやかに過ごせる時間を増やすことが大切です。それぞれ詳しくお伝えしていきます。
1.本人のペースに合わせ、共感する
思考や判断力、動作が低下するため、一つひとつの行動に時間がかかりイライラしてしまいがちです。しかし、ここで急かすと本人は責められていると感じ、焦りが強くなります。[3]
まずは目を見て、ゆっくりと話しかけましょう。本人がつじつまの合わないことを言ってもいきなり否定せず「そうだったんだね」と受けとめてあげると、安心して心を開きやすくなります。[2]
イライラを感じたときには、一呼吸おいて接すると信頼関係を築きやすくなりますよ。
2.簡潔で具体的に伝える
長い説明や一度に多くのことを話すと、本人は理解が追いつかず混乱します。
「あれ」「それ」のようなあいまいな言葉は避け、「昼ごはんを食べ終わったら、お茶を飲みましょう」のように、短く具体的に伝えましょう。言葉だけでなく文字やイラストで示したり、ジェスチャーで伝えたりするのも効果的です。
なお、本人が理解しているようにみえても、実はわかっていない場合もあります。様子をよく見て判断することが大切です。[3]
3.否定せず、失敗や間違いを責めない
失敗を責めると、本人は深く傷ついて失敗を隠したり、焦りから興奮したりします。
できないことを正そうとするより、まずできたことに目を向けてください。難しそうにしていたら「一緒にやりましょう」と、さりげなく手を貸すのもよいでしょう。
2024年に施行された『認知症基本法』でも、認知症の方をひとりの人間として尊重し、尊厳を守ることが基本理念に掲げられています。[4]間違いを責めずに受けとめる姿勢が、本人の安心につながります。
こんなときどうする?認知症への対応のOK・NG例

ここからは実際に日常生活で起こりやすい場面と、その対応について紹介します。やってしまいがちな対応と、望ましい対応をセットでまとめました。先ほどお伝えした3つの対応ポイントを意識しながら確認してみましょう。
食事を食べたことを覚えていない
- NG:「さっき食べたばかりでしょう」と事実を突きつけて否定する
- OK:頭ごなしに否定せず、気持ちを受けとめる
何度も催促されると「さっき食べたでしょう」と言いたくなりますよね。しかし「食べていない」という本人の感覚を否定されると、不信感や空腹への不安が強まります。
「用意するから少し待っていてね」と伝えてみましょう。軽くつまめるものやお茶を出して、ほかのことへ気をそらすのも効果的です。
食べたことを忘れるのは、新しいことを覚えておく力が低下する認知症の代表的な症状で、ご本人の意思による行動ではありません。[5]そう知っておくだけで、関わり方が変わってくるはずです。
排泄を失敗することが増えた
- NG:「どうしてできないの」と叱ったり、恥をかかせたりする
- OK:責めずに、できるだけ手早く片づける
後始末が続くと、こちらも気持ちの余裕をなくしてしまいますよね。しかし、強く責められると本人は自信をなくし、かえって対応が難しくなるおそれがあります。
そのため、感情をこらえてなるべく穏やかに片づけましょう。以下の工夫で、失敗自体を減らせる可能性があります。[6]
- トイレの場所をわかりやすく示す
- 脱ぎ着しやすい衣服に変える
- 時間を見てトイレに誘う
また、便を手でいじってしまう、ろう便が見られることもあります。これも本人に悪気はなく、おむつの不快感や便処理へのとまどいが背景にある場合が多いと考えられています。この場合も叱らずに処理しましょう。便が出る時間帯やサインを見つけたり、衣服を見直したりしてろう便を起こさない環境を作ることが大切です。[7]
大声を出し暴力的になった
- NG:大声に大声で言い返す、力で押さえつける
- OK:安全を確保して距離を取り、落ち着いてから気持ちを受けとめる
本人が認知症の症状を自覚して不安が生じると、ささいなことで不機嫌になりがちです。[8]興奮の裏には、不安や痛み・ストレス・騒がしい環境など、本人なりの理由が隠れています。否定や説得は控え、落ち着いた声で話を聞いて気持ちを受けとめましょう。
暴力に対して言い返したり力で押さえつけたりすると、本人はさらに興奮します。思い当たる原因があれば取り除いてあげることを優先してください。
「物を盗られた」と訴える
- NG:「誰も盗ってない」「自分で置き忘れたんでしょう」と否定する
- OK:「大事なものがなくなって困ったね」と不安な気持ちに寄り添う
物を盗られたという訴え(物盗られ妄想)は、認知症で起こりやすい症状のひとつです。[8]事実を正しても本人の不安は消えず、かえって関係が悪くなることがあります。[9]
まずは否定せず、共感的な姿勢で接しましょう。そのうえで、一緒に探すなどして行動をともにします。見つけたときも、本人に手渡さず「ここにあったよ」と声をかけてあげると、自尊心を守れますよ。
認知症の対応に疲れたら|介護者の心を守るための相談先

介護が長く続くと、心身のストレスが知らないうちに大きくなります。少しでも負担を軽くするために、頼れる窓口を知っておきましょう。[10]
| 相談先 | 詳細 |
| かかりつけ医 | ・日ごろの体調を知っているため変化を相談しやすい ・専門的な検査や医療機関への橋渡し役 |
| 地域包括支援センター | ・全国の市区町村に設置された介護や認知症の総合相談窓口 ・医療や専門機関との連携が可能 |
| 介護保険サービス | ・介護サービスや施設などが利用できる ・市区町村の窓口や地域包括支援センターで申請可能 |
| 認知症初期集中支援チーム | ・専門家が自宅を訪問し、ケアを検討する ・診断前・未受診でも頼れる |
早めに頼ることで、本人や家族に合う方法が見つかりやすくなります。独自の認知症サポート体制や相談窓口を設けている自治体もあるため、まずは話を聞いてもらうことからはじめてみませんか?
本人も家族も笑顔で暮らせる選択をしよう

認知症の対応では、困った言動を症状として理解し、本人によい感情を残すことが大切です。困った行動をしても否定せず、まず気持ちに寄り添ってみてください。対応に正解はなく、本人に合うやり方を探しましょう。
そして、家族だけでがんばりすぎないことも同じように大切です。誰かに頼ることは、恥ずかしいことではありません。専門家の力を借りるのは、本人と家族が笑顔でいられる暮らしへの近道です。
[2]厚生労働省 認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン(第2版)1.意思決定支援の人的・物的環境の整備 (1) 意思決定支援者の姿勢
[3]厚生労働省 認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン(第2版)2.適切な意思決定プロセスの確保(2)本人が意思を表明することの支援(意思表明支援)
[4]e-Gov法令 検索共生社会の実現を推進するための認知症基本法
[6]認知症診療ガイドライン2017 第3章 CQ3C-11 排尿障害の対応はどのように行うか
[7]国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター パーキンソン症状、レビー小体型認知症で便が出ると自分で処理ができずトラブルになりますが、どのような対応をすればいいですか?
[8]認知症診療ガイドライン2017 第2章 CQ2-2 認知症の行動・心理症状にはどのようなものがあるか
[9]認知症診療ガイドライン2017 第3章 CQ3B-3 幻覚・妄想に有効な非薬物療法・薬物療法は何か
[10]厚生労働省 政策について > 分野別の政策一覧 > 福祉・介護 > 介護・高齢者福祉 > 認知症施策 > 認知症に関する相談先

作業療法士ライター:水本 まほろ
作業療法士として総合病院やクリニック、訪問リハビリテーションなどに幅広く勤務。現在も、臨床の場に身を置く医療ライターとして活動中。「誰かの心を軽くし、一歩を踏み出す力になりたい」という想いで、執筆に励んでいます。「第1回Medi+ディレクション講座」卒業生。

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